ふみたい

夜も更け女性陣も帰宅したのだろう。家の中に灯る明かりは少なく。
けれど居間から漏れる光に相変わらず律儀にも待っていたのかとため息ひとつ。こちらのことなど気にせずさっさと部屋に戻って眠っていればいいものを。

「……おい」

ため息ひとつついて踏み入れた居間にぐったりと床に転がる子供。
こんなところで居眠りとは随分といい度胸をしている。これがどうなろうと構わない。が、万が一にでも体調を崩されてでもしてみろ。過保護な女性陣
面倒なことになるのは目に見えている
仕方ない、起こすべきか――と、漂う酒の香りの強烈さに眉をひそめた。
こいつ、酔いつぶれただけか。

「起きろこのばかもの。自分の限界も計れぬ愚か者め」

うつ伏せに転がっているそれを上へと向けて腹の辺りをぐりぐりと踏みつける。まさに潰された蛙のようなうめき声が聞こえたが自業自得だたわけ。手加減して内臓が出ないようにしてやってるだけでもありがたいと思え。
心配、などしていないが損したと八つ当たり半分でやっていたが次第楽しくなってきて。力加減を変えてみたりとさらにつつき回していればようやく覚醒し始めたのかうめき声に混じるやめろという唸り声。 それを無視してさらに力を込めれば手が伸びてきたので足をおろした。つまらん。
足元を見れば蛙(暫定)がのろのろと体を起こしながら台所へと指を向けて。

「ほう、腹が減った飯を作れ、と。夕飯は先に食べていろと言っただろう。それともセイバーの食い意地がうつったか」
「違えよばか。アンタの夕飯、冷蔵庫にあるから」

ちゃんと食え。
……まったく、つくづく甘い。たかだか従僕一人のことなど放っておけというのに。
そもそもサーヴァントに食事など必要ないと何度伝えたことか。
けれど、その甘さをわずかではあるが心地よいと思う自分も居て。

「士郎」
「……なんだよ」

照れているのか常よりもぶっきらぼうな態度でまったくこれだから分かりやすいガキは。

「まだ酒は残ってるか」
「藤ねえが持ってきたのが確か……って呑むのか?」
「ああ。それだけ元気ならお前も少し付き合え」
「そりゃいいけど……頭大丈夫か?」

それとも魔力不足?だのとほざきながら訝しげにひらひらと目の前で振られた手をはたき落とす。らしくないのは承知の上だ。
それでも。たまには

「ふん。私とてたまにはそんな時もある。ついでに貴様が醜態でも晒せば万々歳だ」
「……アンタな、喧嘩売りたいだけじゃないだろうな」
「まさか」

若干酔いが醒めない相手に更に酒を使って、というのは多少卑怯な気がしたがどうせ素面ではお互いまともな会話を続けるのは難しいのだ、これくらいでちょうどいいだろう、と、文句を言いたげなところを無視し台所へ向かった。

2013/06/28