糸の絡まった男の独白

 言ってしまった。

 は、と熱の籠る息を吐く
 やらかした、という自覚はある。これを身内には見せられんと目を瞑る。
 万が一にでも見られたらどれだけ笑われるか。これまで特定の相手を作らなかったのに一体どんな心境の変化だと如何に突きまわされるかは想像に難くない。

 本音を、言葉を寄越してみせろとねだる声の真っ直ぐな甘さについ欲がでた。
 受け止められると、思っていなかったそれを。未来を縛り付ける言葉を告げてしまった瞬間、理性は半ば飛んでいた。勘弁してくれと漏れ出したあの時、もう限界だったというのに。駄目押しのように手を伸ばされたあの瞬間に押さえつけるものは吹き飛ばされたのだろう。
 言い訳にしか、過ぎないが。けれどどうしようもなく甘い誘惑に抗えなかった。

 結果、いいよ、とおだやかな声に受け止められて。こうしてやってしまったと頭を抱えているのだから笑うしかない。

 遊びにしきれないようなものを抱えている若者相手に手をだしたのが悪い。からかいといえど欲求不満なら相手してやろうか、だなんて言うべきでないとわかっていて。それでもなお手を出してしまったのはおそらく北村と同じものが根底にあったのだろう。互いに素直に本心を晒すような柄でもないものだから、知りたいと。目は口ほどにものを言うという諺通り音に乗せる言葉とは裏腹に存外雄弁に北村の瞳は語っていた。だからこそ、気難しいところのある同僚を慈しみたいと思っていたのも本心だったのだが、穏やかに見守る選択肢を断ち切ってしまったのは己の手。
 茶化すのも混ぜっ返すのも染み付いた癖。それを取り払ったところで見えるものは大したものじゃあない。化狐は消えてただの三十路が残るだけだ。それに気付かせてしまえばきっと早々に興味を失えただろうに。
 関係を持った時受け身に回ったのはせめてもの抵抗だった、はずだ。
 いつか別れる日は必ず来る。化かし合いなんてしていれば本心なんてものは互いにますます見えなくなっていく。己のものも、相手のものも。そうしてきっと、この関係は破綻する。そのいつかが来た時、不要な傷跡を残さないための言い訳であり、抵抗でもあった。
 そんなことを奥底に抱えたまま。息の詰まる――それでも。どうしてか嫌ではないその関係は、愛おしくはあった。だから。このまま時が止まれば、だなんてガラにもないことを考えてしまって。

 ――その、罰は。その願いの末路は。
 触れた熱に、この手が離れなければいいと願う。けれど。抱きしめた先、視線は噛み合わなくなると知っていた。

 

 

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例の本の雨彦さん心理描写書きたかった
正確に言うとこっちがプロットです…実際書いてみたら薄っすら暗いというか北村の方が思ったより棘がなくなってたので雨彦さん勝手に罪悪感に苛まれてる感じになってるごめんな…北村なら大丈夫だからその感情に身を任せてみて…

2018/05/10