媚薬日狛

あつくて、どろどろとしていて。指先から溶けていきそうだと感じるほどの熱を抱えてどれだけ経っただろう。
ふらふらと歩きながら地面に触れているはずの足の感覚が痺れていて、触覚すら無くなっているのか、敏感になっているのかもはや分からなくなって。
いつだったか、似た熱に苛まれたことを思い出した。
あの時はどうやってやり過ごしたのか。朦朧とする頭ではさして日が経っていないはずのことですら思い出すことも難しく。
思考を余所にやりたくても内側から焦がすようにからだを溶かす熱から逃げられなくて。少しでも楽になりたくて吐き出したはずの息の熱さにすら侵されるなんて酷い悪循環だ。

自身の体温とともに上昇していく室内に一人うずくまっているのも苦しくて、だから夜の空気の冷たさに晒されれば少しはこの熱もましになるかもしれないと外に出たはずなのに。冷えるどころかますます熱が籠もる一方で。この調子ではロクなことにならないだろうと、諦めてコテージに戻ろうとした時だった。

「どうしたの日向クン」
己のコテージの前、月夜に照らされて佇む狛枝に一瞬、抱えた熱すら忘れるほどに目を奪われて息が詰まる。
「……おまえこそ、こんな時間になにやってるんだよ」
見とれたことを認めたくなくて。必死で平静を装うとしたはずの声は無様にも枯れていた。

ウサミが夜を知らせてからずいぶんと時間がたっている。こんな夜更けなら誰にも会わないだろうと外に出たはずなのに、まさかよりによって一番会いたくない奴に見つかるだなんて。


一人毒づいていた所為か叫びたくなるほどに近づかれているのに気がつけなかった。

「あのね」

日向クン、君を待ってたんだよ ――耳元で吐息混じりに囁かれた声に脳味噌が揺さぶられて。

ゆらり、ゆらいだ白い炎に飲み込まれた

2013/11/24